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秩序について
外見上極めてよく整理されているもの必ずしも秩序あるものでなく、むしろ
一見無秩序に見えるところに却って秩序が存在するのである。この場合秩序
というものが、心の秩序に関係していることは明らかである。どのような外的
秩序も心の秩序に合致しない限り真の秩序ではない。心の秩序を度外視
してどのように外面の秩序を整えたにしても空疎である。
秩序は生命あらしめる原理である。そこにはつねに温かさがなければならぬ。
ひとは温かさによって生命の存在を感じる。
また、秩序は充実させるものでなければならぬ。単に切り捨てたり取り払ったり
するだけで秩序ができるものではない。虚無は明らかに秩序とは反対のものである。
知識だけでは足りない、能力が問題である。能力は技術と言い換えることができる。
秩序は、心の秩序に関しても、技術の問題である。
プラトンの中でソクラテスは、徳は心の秩序であるといっている。これよりも具体的で
実証的な徳の定義を私は知らない。今日最も忘れられているのは徳のこのような考え
方である。
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『人生論ノート』 三木 清 新潮文庫
何でも簡単に目の前から邪魔と思われるものをとりはらい、秩序付けたように思う風潮は
真の意味で秩序及びそれに必要な技術を尊重していない現れではないか。